2019/11/25 #作業樓
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林夕《燭光很忙》
燭光很忙
這年來不斷照亮地獄與天堂
逗留在地上的總得習慣
暫時的黑暗
再冷冰陌生的床
把身軀放下
自語一千次晚安早安
自然會變得溫暖
令愛你的人安詳
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本詩選自林夕詩集《十方一念》。
林夕,畢業於香港大學文學院,主修翻譯。曾任港大中文系助教、《快報》編輯、亞洲電視節目部創作主任/副經理、音樂工廠創作總監/總經理、商業電臺廣告創作及製作部主管/商業電臺創作顧問/商業電臺顧問。現全職寫字。
林夕曾於1995年至2003年連續九年獲得叱吒樂壇填詞人大獎,是最長連續奪得該獎項的填詞人,又於2006年至2009年再度連續四年獲叱吒樂壇填詞人大獎,他曾在1999年憑王菲的歌曲〈臉〉及2010年憑張惠妹的歌曲〈開門見山〉,兩度獲得台灣金曲獎的流行類最佳作詞人獎。
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https://www.facebook.com/groups/676899475660255/permalink/3172619766088201/
同時也有3部Youtube影片,追蹤數超過4,310的網紅伊格言Egoyan Zheng,也在其Youtube影片中提到,☞艾莉絲‧孟若作品 https://rebrand.ly/d93a7 ☞伊格言作品 https://rebrand.ly/rg2brg ───── ☞〈與上帝討價還價的後果──艾莉絲‧孟若〈柱和樑〉〉全文連結:https://www.egoyanzheng.com/single-post/2020/...
林夕詩集 在 伊格言Egoyan Zheng Youtube 的精選貼文
☞艾莉絲‧孟若作品
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☞〈與上帝討價還價的後果──艾莉絲‧孟若〈柱和樑〉〉全文連結:https://www.egoyanzheng.com/single-post/2020/03/07/%E8%88%87%E4%B8%8A%E5%B8%9D%E8%A8%8E%E5%83%B9%E9%82%84%E5%83%B9%E7%9A%84%E5%BE%8C%E6%9E%9C%E2%94%80%E2%94%80%E8%89%BE%E8%8E%89%E7%B5%B2%E2%80%A7%E5%AD%9F%E8%8B%A5%E3%80%88%E6%9F%B1%E5%92%8C%E6%A8%91%E3%80%89
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#孟若 #小說 #諾貝爾文學獎
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今天的故事是諾貝爾文學獎得主艾莉絲‧孟若的短篇小說〈浮橋〉。
開始前,伊格言先為讀者打了支預防針──他說,孟若的作品向來有點「難」。
問題是,難在哪裡?
伊格言說,難在作者想傳達的主題往往非常幽微而隱秘,不甚明顯,也沒有一個固定的解答。
這種寫法很容易讓讀者如墜五里霧中,感覺困惑:這些人究竟在幹嘛?下一步要做什麼?
但這種迷霧正是孟若埋下的線索:將情感的幽微轉折,包裹壓抑在樸素而冷調的筆法之中。
以本篇小說〈浮橋〉為例,題材上是個(疑似)小三介入婚姻的故事;
但其實想討論的並非「外遇」一事,而是另有主題,偷偷躲在情節表面的巨大冰山之下。
故事講述尼爾和金妮一對夫婦,丈夫尼爾比太太金妮大16歲,但金妮得了癌症,已做過幾次化療。
她比丈夫年輕這麼多歲,所以從沒想過自己有可能會比尼爾先死。
而尼爾的職業是一名社會運動者。
在金妮眼中,尼爾幾乎處於死當邊緣──他既不事業有成,對妻子也不怎麼體貼。
舉例來說:金妮化療出院,尼爾開車去接她,陰錯陽差卻到了不太熟識的,麥特和珠恩夫婦位於玉米田中的家裡。
那是個樸實的農家,女主人珠恩盛情力邀二人入內作客。
但罹癌的病人金妮身體孱弱,不想作客,只想趕快回家。
尼爾顯然沒有體貼到這一層。他將箱型車停在屋外的空地,和金妮起了小爭執:
「可是剩了好多豆子濃湯。」珠恩說:「你們一定得進來幫忙清掉那豆子濃湯。」
金妮說:「哎,謝謝。可是我什麼都不想吃。這樣熱時我什麼都不想吃。」
「那就改喝點東西。」珠恩說:「我們有薑汁汽水、可樂。我們有桃子酒。」
「啤酒。」麥特對尼爾說:「要不要來罐藍牌?」
金妮向尼爾招手要他過她車窗來。「我沒辦法。」她說:「就跟他們講說我沒辦法。」
「你知道你會傷到他們的面子。」他低聲說:「他們是好意。」
「可是我沒辦法。不然你去好了。」
他彎身更近:「你知道若你不去會怎樣。看來會好像說你比他們尊貴許多。」
「你去。」
「你一到裡面就好了。冷氣真的會讓你舒服些。」
金妮搖頭。
從這一幕我們可以感受到夫妻間的意見不合。
再扣回尼爾的特殊身份,我們發現,尼爾是個「社運份子」,或說「社運領袖」──在新聞和歷史中,我們可以看到社運領袖拋頭顱、灑熱血,為理念奮戰;但往往無從得知這些社運領袖背後妻子的心情。
尼爾比金妮大16歲,金妮把最美好的青春歲月給了他;
他們之間顯然有愛,但尼爾沒給金妮等值的回饋──為了實現自己的政治理想,尼爾具備組織能力,善於社交,嫻熟於人際關係與應對進退;
但這樣懂得瞻前顧後、察言觀色的「世故技能」,在他們面對農家夫婦過度熱情的邀請時,反而為金妮帶來困擾。
換言之,尼爾總是在照顧「外人」,卻不怎麼顧慮自己的「內人」。
金妮終究獨自留在了戶外,沒有進屋裡去。
但她突然有了尿意──夕陽西下,彩霞滿天,她偷偷躲進玉米田裡去小解。
伊格言說了件有趣的事;他說,在小說情節中,凡是遇到小解,那麼大概百分之七十都帶有「自由」或「解放」的寓意;
此處也不例外──金妮的小解不僅是生理上的放鬆,更預告了下一刻,情感上更大的自由。
因為當她小解結束從玉米田出來後,就遇上了男主角瑞克......
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伊格言,小說家、詩人,《聯合文學》雜誌2010年8月號封面人物。
著有《噬夢人》、《與孤寂等輕》、《你是穿入我瞳孔的光》、《拜訪糖果阿姨》、《零地點GroundZero》、《幻事錄:伊格言的現代小說經典十六講》、《甕中人》等書。
作品已譯為多國文字,並於日本白水社、韓國Alma、中國世紀文景等出版社出版。
曾獲聯合文學小說新人獎、自由時報林榮三文學獎、吳濁流文學獎長篇小說獎、華文科幻星雲獎長篇小說獎、中央社台灣十大潛力人物等;並入圍英仕曼亞洲文學獎(Man Asian Literary Prize)、歐康納國際小說獎(Frank O'Connor International Short Story Award)、台灣文學獎長篇小說金典獎、台北國際書展大獎、華語文學傳媒大獎年度小說家等獎項。
獲選《聯合文學》雜誌「20位40歲以下最受期待的華文小說家」;著作亦曾獲《聯合文學》雜誌2010年度之書、2010、2011、2013博客來網路書店華文創作百大排行榜等殊榮。
曾任德國柏林文學協會(Literarisches Colloquium Berlin)駐會作家、香港浸會大學國際作家工作坊(IWW)訪問作家、中興大學駐校作家、成功大學駐校藝術家、元智大學駐校作家等。
Readmoo專訪1:如果在YouTube,一個小說家
https://news.readmoo.com/2020/01/07/200107-interview-with-egoyan/
Readmoo專訪2:那些關於孤寂的問題,以及......
https://news.readmoo.com/2019/03/21/190321-lonelieness/
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小說是什麼?我認為,好的小說是一則猜想──像數學上「哥德巴赫的猜想」那樣的猜想。猜想什麼?猜想一則符號系統(於此,是文字符號系統)中的可能真理。這真理的解釋範圍或許很小,甚至有可能終究無法被證明(哥德爾的不完備定理早就告訴我們這件事);但藝術求的從來便不是白紙黑字的嚴密證明,是我們閱讀此則猜想,從而無限逼近那則真理時的智性愉悅。如若一篇小說無法給我們這樣的智性,那麼,它就不會是最好的小說。
是之謂小說的智性。───伊格言
林夕詩集 在 伊格言Egoyan Zheng Youtube 的最佳貼文
一輩子偷偷藉由小說來偷偷抱怨自己太太的公主病的費茲傑羅?
#大亨小傳 #費茲傑羅 #文學
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☞〈那些年我們一起(錯)追的女孩〉全文連結|https://www.egoyanzheng.com/single-post/2020/01/14/%E9%82%A3%E4%BA%9B%E5%B9%B4%E6%88%91%E5%80%91%E4%B8%80%E8%B5%B7%EF%BC%88%E9%8C%AF%EF%BC%89%E8%BF%BD%E7%9A%84%E5%A5%B3%E5%AD%A9%E2%94%80%E2%94%80%E8%B2%BB%E8%8C%B2%E5%82%91%E7%BE%85%E3%80%8A%E5%A4%A7%E4%BA%A8%E5%B0%8F%E5%82%B3%E3%80%8B
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費茲傑羅《大亨小傳》(The Great Gatsby,了不起的蓋茲比)顯然是文學史上最著名的小說之一了。故事背景設定於美國1920年代,經濟大繁榮的爵士時代──這是個美國夢的年代(伊格言說,那是個夢的量化寬鬆、希望的通貨膨脹的年代)──然而,這也正是一九三0年代經濟大蕭條的前夕。時間就是如此詭譎:經濟到達極盛巔峰,其實已快要盛極而衰了。而這同時呼應了故事主角蓋茲比的處境。
《大亨小傳》的故事是這樣開始的:敘事者尼克由中西部故鄉移居至紐約,打算從事金融期貨投機生意。安頓妥當後,他前往故事女主角──表妹黛西家中拜訪。這也是他在相隔多年之後再次見到表妹黛西的老公湯姆‧布坎南。作者費茲傑羅的寫作手法堪稱迅速俐落;從幾位主角的開場亮相就已經暗示了他們的基本性格。以湯姆‧布坎南為例──這是個反派角色,果然一現身就很討人厭。小說如此形容:
現在他三十幾歲,身材健碩,頭髮呈現金黃的稻草色,舉止高傲,一副目中無人的樣子。他炯炯有神的雙眼散發著傲慢的光芒,永遠給人一種盛氣凌人的感覺。那套騎裝雖然講究得像給女孩子穿的,卻掩蓋不住他魁梧壯實的身軀。
這是一個孔武有力的身軀,一個蠻橫的身軀。
亮相之後,僅僅相隔八頁,湯姆‧布坎南便當眾發表了一番歧視有色人種的謬論;再相隔四頁,就在宴席之間,我們就偷偷知道湯姆「已經」背叛了黛西──他在外面養了個小三。
一般讀者看到這裡,不會討厭湯姆‧布坎南才怪。沒錯,這就是小說作者的技術了......
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伊格言,小說家、詩人,《聯合文學》雜誌2010年8月號封面人物。
著有《噬夢人》、《與孤寂等輕》、《你是穿入我瞳孔的光》、《拜訪糖果阿姨》、《零地點GroundZero》、《幻事錄:伊格言的現代小說經典十六講》、《甕中人》等書。
作品已譯為多國文字,並於日本白水社、韓國Alma、中國世紀文景等出版社出版。
曾獲聯合文學小說新人獎、自由時報林榮三文學獎、吳濁流文學獎長篇小說獎、華文科幻星雲獎長篇小說獎、中央社台灣十大潛力人物等;並入圍英仕曼亞洲文學獎(Man Asian Literary Prize)、歐康納國際小說獎(Frank O'Connor International Short Story Award)、台灣文學獎長篇小說金典獎、台北國際書展大獎、華語文學傳媒大獎年度小說家等獎項。
獲選《聯合文學》雜誌「20位40歲以下最受期待的華文小說家」;著作亦曾獲《聯合文學》雜誌2010年度之書、2010、2011、2013博客來網路書店華文創作百大排行榜等殊榮。
曾任德國柏林文學協會(Literarisches Colloquium Berlin)駐會作家、香港浸會大學國際作家工作坊(IWW)訪問作家、中興大學駐校作家、成功大學駐校藝術家、元智大學駐校作家等。
Readmoo專訪1:
https://news.readmoo.com/2020/01/07/200107-interview-with-egoyan/
Readmoo專訪2:
https://news.readmoo.com/2019/03/21/190321-lonelieness/
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小說是什麼?我認為,好的小說是一則猜想──像數學上「哥德巴赫的猜想」那樣的猜想。猜想什麼?猜想一則符號系統(於此,是文字符號系統)中的可能真理。這真理的解釋範圍或許很小,甚至有可能終究無法被證明(哥德爾的不完備定理早就告訴我們這件事);但藝術求的從來便不是白紙黑字的嚴密證明,是我們閱讀此則猜想,從而無限逼近那則真理時的智性愉悅。如若一篇小說無法給我們這樣的智性,那麼,它就不會是最好的小說。
是之謂小說的智性。───伊格言
林夕詩集 在 Genの本棚食堂 Youtube 的最讚貼文
私が仕事を終えて事務所から出た頃、空には深い藍色をした夜が、焼けるような夕陽を飲み込もうとする姿があった。その光景はこの世の物とは思えない程壮大で、美しく、悲しさに満ちていた。
それは私にとって掛け替えのない記憶を突然に呼び起こした。私がまだ少年と呼べる歳の頃に想った人の古い記憶だ。彼女へ抱いた感情は恋よりもずっと濃く、愛よりもずっと淡かった。
彼女の柔らかく細い髪が、透き通るグレーの虹彩が、小麦色の滑らかな肌が、特別な力を感じる声が、海馬の奥底から次々に湧きだし、私の全てを満たしていく。
彼女は言った。
『私は確かにあなたの前に存在しているけれど、大半の人にとってはいないも同じ』
『幸せって掴むものじゃなくて気づくものだと思う。そうあって欲しいと私は思う』
『あなたの詩を書いてみたけれど、ひどい出来ね』
『私にはまだ恋愛ってものが分からない。でも、ちゃんとそれなりの幸せは感じてるの』
『いつか、必ず会える。そしたらまた、春風の気持ち良い野原でも作ってリルケの話でもしながら、すみれのサンドウィッチを食べようよ』
目を細め、静かな笑みを見せながら、彼女はいつもそう言うのだ。その顔は私の経験してきた何よりも愛おしかった。
それなのになぜ、忘れてしまったのだろうか。
あれほど大切に思っていた人の事をどうして数十年何も思い出さずにいられたのか。
一体いつから。
その起点を思い出す事はできなかった。まるで夢と現実の境界線のように。
彼女を忘れたこれまでの人生は、本当に自分の人生だったのだろうか。そう考えた時、私の脳裏には、これまで両眼で見てきた光景の数々がフラッシュバックした。
アルバイトをしていた三軒茶屋の小さなレコードショップとその主人。
25の時、共に事務所を立ち上げ、30年以上仕事をしてきた同僚の岡島。
素朴で温かいチャペルでの挙式。真っ白なドレスに身を包んだ妻。
三鷹に買った、小さなセコイア並木の見えるマンション。
自分の腕の中で幸せそうな寝息を吐く娘の、溶けてなくなってしまいそうな頬。
これは誰の人生だ?
私はその場に立ち尽くし、ひどく混乱した。古びた心臓の鼓動は早まり、渇ききった額には汗が滲む。
「──さん。宮本さん」
部下の津島が声をかけてくれるまで、私は瞬きさえすることができなかった。
「大丈夫ですか?その、顔色があまりよくないみたいで」
彼は私の顔を覗き込むように言った。
「あぁ。大丈夫だよ。ただ、すまないんだが笹山くんとの食事はキャンセルさせてくれないかな。少し気分が悪い」
「分かりました。笹山さんには伝えておきます。またいつでも飲めますから」
「申し訳ないね」
「私が言うのも何ですけど、本当に気にしないでください。とにかく、今日は家に帰ってゆっくり休んでください」
「ありがとう」
私がそう言うと、彼は後輩の小林を連れて飲食街の方へ消えていった。
私は自分の立つ場所の辺りを見回した。目に映るのはいずこへともなく歩きすぎていく無数の人々の姿と山脈のように連なり、赤く点滅する高層ビル群の陰だった。それは水晶体が白濁する程見慣れた光景のはずだった。
ここはどこだろうか。
私はいまどこに立っている。
一体、どこへ向かえばいい。
時間が経てば経つほど、思考はかき混ぜられ、気分が悪くなる。そんな中、溢れ出る記憶の中のとある言葉だけが、私を少しばかり安心させた。
『どこにも行き場がなくて、どうしようもなくなったら私の所に来なさい。あなたが望めば必ずここへ来られるから』
それはすみれさんの言葉だった。当時、身の裂けるような思いをしていた私に掛けてくれた何よりも温かい言葉だった。
私は目元を強く押さえて深く息を吸い、足を前へ踏み出した。
繁華街の大通りから一本裏手に入ると、雑居ビルに囲まれた暗い路地がある。そのビルの間の道とは言えない道へ入り込み、眠る浮浪者を跨ぎながら、行けるところまで進んでいく。
雑居ビルの隙間から見える空は、完全な夜へと変わっていたが、未だ太陽は煌々と光っている。
それはあまりに不自然で、奇妙な光景だった。
そしてそれを、私は蘇った記憶の中で目にしていた。
その場所は私がもといた現実の世界ではない。
「君の作った世界だ」
私は禍々しい太陽へ向かって言った。
ここにいる人もビルも、塵も光も、何もかも、君が作った世界だ。
この空は、彼女が初めて作った世界の空だ。今にも霧のように消えて無くなってしまいそうな彼女は、書斎の小さな窓を通してこの空をぼんやりと見ていた。
『この家はあなたの世界にいた頃暮らしていた家なの。この書斎でいつも母が扉の鍵を開けてくれるのを待ってた。母の事も、この家の事も嫌で嫌で仕方なかったのに、結局ここに帰って来る。自分の存在を確かめるにはどうしてもこの場所が必要なの。ほんと皮肉だよね』
それから程なくして、彼女は部屋だけを残して僕の前から跡形もなく消えてしまった。
行きついた果てには、飲食テナントの入ったビルの裏口があった。大きな換気扇からは、賑やかな光と音、古い油の匂いがした。私はその脇にある錆びた扉の前に立ち、煙草の吸殻を踏みながら、すみれさんの事を考えた。
そして、錆びたドアノブを回し、軋む音を立てながらゆっくりと引いた。その手には、どこか懐かしい感覚が流れ、やがて全身へ回っていった。
扉の先には、そこにあるはずの飲食店とは異なる店があった。オーク材をふんだんに使った重厚なテーブルが並び、古い電球が色褪せた光で室内をぼんやりと照らしている。部屋の隅のレコードは回り続け、聞いたこのない女性ボーカルのバンド曲を流している。客席には、顔と声の存在しない者達が座り込み、じっと何かを考え続けている。どこにでもあるのに、どこにもない部屋。いつでもあるのにいつでもない部屋。ここはそう言う場所だった。
「いらっしゃい」
カウンターの中からそう話すのは、すみれさんだった。50年前と何も変わりのない声や姿がそこにはあった。
「すみれさん」
私はドアを閉めながら言った。
「宮本君、随分大人になったのね」
そう言いながら、彼女は髭を撫でるような仕草をした。短く切り揃えられた黒髪、整った容姿に陶器の様な質感の肌はある種、彫刻のような冷たく静かな美しさがあるけれど、その中はユーモアと茶目っ気のある温かさが満ちている。
「おひさしぶりです。すみれさんは変わりないようで。いつの間にか、歳越えちゃいましたね」
私は笑いながらそう言い、同時にひどく悲しくなった。自分だけが年老いた事実が言葉にした後に重くのしかかったのだ。
「何も変わらないわ。良くも悪くもね。ねぇ、あなた今までどこにいたの?」
「分かりません。彼女が作った世界のどこか、だと思います。そのことに気づいたのはたった今ですけれど。気づくのが遅すぎました。僕はあの世界で、彼女の事なんか何も思い出さず、他人のような人生を何十年も生きてきました。こんな可笑しな話がありますか。一番浮ばれないのは私の死んだ妻と娘ですよ」
私は悔しさと苛立ちを含んだ口調でそう言った。
「分かっていると思うけれど、あの子の作る世界に時間の概念は存在していない。その姿だってあなたが無意識に作り出してるイメージよ」
「そんなことは分かってますよ。それでも、僕には50年以上過ごした感覚がどうしようもない程この身体に染み付いているんです。とてもじゃないが、以前の僕になんて戻れません」
僕がそう言うと、彼女は小さなポットに火をかけた。
「記憶を消したければ消せばいい。その感覚だって消えるだろうし、その姿だって勿論元に戻れると思う。でもそれであなたは、あの子は納得できるの?」
「僕は──」
するとすみれさんは手を前に出した。
「まずは席に掛けて。焦らずゆっくり話しましょう。時間はあるもの」
そう言うと、彼女は笑みを見せた。その姿に、僕はすっかり興奮をそぎ落とされてしまい、深いため息を吐きながら革張りのカウンターチェアに浅く腰かけた。
「何か食べる?」
彼女は食器の整理をしながら言った。
僕の脳裏に浮かんだものは、タマゴハムサンドだった。あの頃、この店に来るたびに食べていたメニューだ。
「タマゴハムサンド」
「たまごは?」
「たっぷりで」
するとすみれさんは嬉しそうな笑みを見せた。
「ちょっと待っててね」
彼女は木皿の上に盛られたゆで卵の一つを取り、細かくカットしてビーカーに入れた。そしてマヨネーズと他いくつかの調味料を混ぜてタマゴサラダを作り、大きな鉄のフライパンでハム2枚をさっと焼いて焦げ目のついたパンにそれらをまとめて挟んだ。
僕はその一連の無駄のない流れをぼんやりと見ながら、ふと呟いた。
「彼女が戻って来たんだと思います」
すると彼女はテーブルにタマゴハムサンドと珈琲の入ったマグを置いた。
「熱い内に」
僕は言われるがままに一口噛り付いた。卵の優しい味に、マスタードの酸味と砂糖の甘味、ハムの塩味が不思議なくらいよく合う。すみれさんの味だった。
「美味しいです。すごく」
「そう言う言葉を貰えるとやっぱり作り甲斐があるわね」
彼女はカウンターに両肘をつきながら言った。
それから僕は淹れたての珈琲を喉に通した。一口飲むだけで、随分と気分が落ち着き、平静を取り戻した。
そんな僕を見ながら、すみれさんは一つ一つの言葉を紡ぐように話した。
「あの子については、私もまだ何も知らない。どういう形になって、どこに存在しているのか。手掛かり一つ見つけられていない。でも、あの世界が残っている限り、彼女は必ず生きている。そしてあなたを呼んでいる。他の誰でもなく、あなたを。だから探してあげて」
「はい」
僕は彼女のサンドウィッチを平らげ、珈琲を飲み干すと、彼女から当時使っていた鞄を受取った。中には瑞々しいリンゴにノートと鉛筆、そしてリルケの詩集が入っていた。
「ほんと、何も変わりませんねここは」
僕は鞄を背負い、再びドアの前に立った。そこにはもう、少年だった僕でも、老人だった私もいなかった。
「すみれさん、また会えますか?」
僕がそう言うと、彼女は笑みを見せた。
「あなたがそれを望むなら」
BGM:J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻 第24番 ロ短調 BWV869(J.S.Bach:The Well Tempered Clavier No.1 in B minor, BWV869)